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ホーム > 学校・授業の教材 > 『郷土の民話』中播編 > 竜の降らした大雨洪水〈こうずい〉(市川町)

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更新日:2012年12月17日

竜の降らした大雨洪水〈こうずい〉(市川町)

「そりゃもう、大へんなことじゃった。村はじまっての、大へんなできごとじゃったよ。」と、おばさんは語りはじめました。
「ここから八キロメートル北の大山というところは、波がたたず風ふかず、人と人とは仲よく交〈まじわ〉って、じつに平和な村じゃった。それがある時・・・。」
ある時というのは、元亨〈げんこう〉二年(一三二一)後醍醐〈ごだいご〉天皇のころ、この村へ悪者が忍びこみました。山ひとつ越〈こ〉えた隣〈となり〉からきたのです。何者かという名は、はっきりしていません。けれど、四、五人が組をくんでいました。
「あっ、川が荒らされる。魚がみんなとられてしまった。」村人が朝早く川端に立つと、石という石がひっくり返され、笹〈ささ〉の根の魚のネタ・・が大きくえぐりとられています。川には、やまめ・・・やその子のヤマゴ・・・ひらべ・・・という、焼〈や〉きにすれば、ほっぺたもとぶほどおいしい魚がたくさんいましたが、その姿が見あたりません。
それだけじゃなしに、ある朝は、いのししの毛皮や、肉を切り抜いた骨や、四つ肢〈あし〉の爪〈つめ〉などが投げこまれていました。村人の飼っている鶏〈にわとり〉が盗〈ぬす〉まれました。ときには、苦労をかさねてつくった米が俵〈たわら〉ごと、蔵〈くら〉から持ち出されるということまで始まりました。
「ひでえことをする奴〈やつ〉じゃ。」「とっつかまえて、袋だたきにしてやろう。」村人たちは腹をたてました。
けれど、これらの悪者たちは、夜半にほうかむりをして出てきたり、たいまつ・・・・をもやして、川に入ったりしました。夜がほのぼのと白みはじめたころから仕事にかかって、村人が目をさましたときには、みんな山に逃げこんでしまいました。

あるとき、血気ざかりの青年が二人、悪者の後姿をみつけて追っかけて山に入りました。でも悪者を退治するどころか、頭や手足を刃物で、めった斬りにされて逃げかえってきました。
「おっそろしいこった。おおかた命のないところやった。」
と、青年たちはふるえながらいいました。
「こまったこった。こんなに村を荒らされても、どうにも手が出ないこっちゃ。」村人は、思案〈しあん〉しつづけました。
「天におわします陽〈ひ〉の神さま、どうぞ、この悪い奴〈やつ〉を追っぱらってくださりませ。」村の年寄りたちは、まい朝、軒〈のき〉に立って、東の空に拍手〈かしわで〉をうちました。
「そうよな、昔から悪〈あく〉よけ、疫病〈えきびょう〉よけには、ようごま・・をたいたというこっちゃ。ここでも、それをやってみたらどうだな。」村頭〈かしら〉の尊長〈そんちょう〉さんがいいました。まず年寄りたちが、さんせいしました。
「そんなこと、神まかせにしたって、どうすりゃ。」と、神がかりを嫌っていた若い者も、仕方なくそうすることにしました。
大ごま供養〈くよう〉、ごまたきは、行者〈ぎょうじゃ〉さんのふくほらの貝・・・・とともにはじまりました。人びとは口々に祈りの言葉をとなえ、山と積んだ薪〈たきぎ〉に火がつけられ、炎はめらめらと、天に向ってまいあがりました。
と、どうしたことでしょう。「あれよ、あれよ。」と、村人がびっくりしている中を、一匹の竜が空中におどり出てきました。それは、ごまたき・・・・の近くの小さな小川から、まいあがったようでした。
村人たちは、ごまの炎よりも、竜の飛びあがりに眼をうばわれました。
するとまた、どうしたことでしょう。
一天にわかにかき曇り、まつ暗になった空から、大粒の雨が降りはじめました。それはまた、何と形容したらよろしいでしょうか。ざ、ざ、ざ、ざあっと、まるで滝からしぶきをあげて流れ落ちる水のようでした。
それも、空にまう竜の右と左と前と後ろを、かこうようにして降ってきました。
この雨は三日三晩降りつづき、そのために、川という川は大洪水〈こうずい〉となりました。

このことがあってから、大山の村から悪者の姿は消えるようになりました。そして、このために八キロメートル南の屋形〈やかた〉を流れていた東と西の川が、東西いっしょになって西の川へ流れるようになったといわれています。
このおばさんの話した“竜と大雨と大洪水”は、子に孫に伝えられ、いまも尾形のお年寄りたちの耳に残り語りつがれています。

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