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ホーム > 学校・授業の教材 > 『郷土の民話』中播編 > 初夢〈はつゆめ〉と焼〈や〉き餅〈もち〉(神崎町)

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更新日:2012年10月29日

初夢〈はつゆめ〉と焼〈や〉き餅〈もち〉(神崎町)

神崎郡の、ずうとずうっと、山ん中の、窪地〈くぼち〉の小さな村にのこっている話です。
その地の小さな学校で、家庭訪問にいくことになりました。でも、ここに住まいする人は、たいてい昼は男女とも山しごとで、家にいません。それで、先生たちは、夕方山からかえってくるころ家々をたずねました。

ある年のことです。たんにんの先生が、子どもの家へ家庭訪問にいきました。さいわいその日は、おかあさんがいたので、おかあさんと受持ちの子どものことについて、いろいろはなしあいました。話も終わって、いざ帰ろうとするところへ、おとうさんが山から戻ってきました。
「まあ、まあ、えらかったね、じき(すぐ)やきもち・・・・をやくから待っててね。」と、まるで子どもにいうようにいって、おとうさんを迎えました。
(はて、おかしいぞ、おとうさんが、えらいしごとをすませてかえりついたのに、やきもち・・・・をやくとは?)と、先生は思いました。(やきもち・・・・いうと、他〈ひと〉人のことを羨〈うら〉やむことだ、よく思わないことだ)と、先生は、また思いました。そこで先生は、
「一体〈いったい〉、やきもち・・・・いうたら、なんのことですね?」と、おかあさんにききました。
「おやおや、これは?…」といって、おかあさんは、やきもち・・・・いわれ・・・について話してくれました。
それは、こんな話でした。

昔、村の若い衆〈しゅう〉たちが、正月二日の初夢を見たら、どんな夢か、おたがいに語りごっこをすることになりました。年の多い順に、初夢を話し出しました。ところが、一人の男は、自分の夢をどうしても話しません。
「こんどは、お前〈め〉さんの番だよね。」
「いやだ、おらは話さん。」
「何をいうだか、おたがいに話そうちゆう約束しただねえか。」
「あんまり、いい夢を見たさかい(から)に、おらは話さんぞ。」
「そんげに、いい夢なら、なおのこと聞きたいが、ただで聞かぬさかい、どうでも話せ。」
「そうだな。二十五の年祝いのごつと(ごちそう)をすれば話す。」
それで、若い衆たちは、その夢が聞きたくて、ないしょ・・・・の銭〈ぜに〉出しおうて、二十五の祝いのごっと・・・をしました。男は、みんな腹一杯〈はらいっぱい〉食べてからいいました。
「これっぽっちのごっと・・・では、おらの初夢は語れんが。そうだな、四十二の年祝いのごっと・・・をすりや話す。」そこで、若い衆たちは、その時のごちそうをしました。ところが、やっぱり男は語りません。
こんどは、六十一の年祝いのごちそうを食わせといいました。
これには、若い衆たちもおこって、
「そんげな夢きかんでもええ、こんげな奴〈やつ〉め、海へ流してしまえ。」と、大きな箱をつくって、その中に入れ、釘づけにして海へ流してしまいました。

箱は、海をあちこち流れて、しまいには鬼が島へ流れつきました。鬼どもが見つけて、ワイワイ騒ぎながら箱をあけると、中から若い男が出てきました。ところが、鬼どもがいうより先に、若い男がいいました。
「おい、鬼、おらは、悪いことをして、島流しになったのではない、食うのは待ってくれ。」
「なに、それならば、どうして、こんげなとこに来たのだ。」
「正月の初夢の語りごとを約束したけど、あんまりいい夢を見て、おらは語る気にならなかった。そしたら若い衆どもがおこって、おらを箱に入れて海に流して、ここへ流れついたんだ。」
「なになに、そんなら、よっぽどいい夢を見たんだな。その夢を、おらたちに話してくれろよ。」
「いやいや、それは、とんでもない、ただでは語れん。」
「そんなら、どうすりゃええんだ。」
「そうだな、鬼が島の宝物と、おらの初夢をかえっこしてもいい。宝物は、姿の見えなくなるというかくれ笠〈がさ〉とかくれ蓑〈みの〉、手をひとつポンとたたけば千里〈せんり〉を走るという千里車〈せんりぐるま〉、何でも望みの品の出るという打出〈うちで〉の小槌〈こづち〉…。」
「そんなら…。」
「いやいや、それには、もうひとつ足らん。おらは腹がへっとる、腹を満〈み〉たす餅〈もち〉がほしい。餅もふつうの餅じゃない、焼〈や〉いた餅〈もち〉じゃ、つまり焼き餅じゃ。」
そこで、鬼どもは、さて、どうすると、相談しました。ひとまず、この男のいう通りに、みんな出してやって、夢の話をきいたあとで取りもどそう。だけど千里車だけには、太い綱〈つな〉をつけて、逃げれんようにしておこうときめました。さっそく、それらの宝物と焼き餅を出しました。
すると男は、かくれ笠をかぶり、かくれ蓑〈みの〉を着て、打出〈うちで〉の小槌〈こづち〉と焼き餅を持って、千里車にのり、
「なるほど、この宝物は、ほんものだな。それでは、おらの夢を語るとしよう。」
と、手をひとつポンと打ちましたら、千里車がスーッと風のように走り出しました。
「そおら、逃げるぞ、逃げたら大へん。」鬼どもは、千里車につけた太綱〈ふとづな〉をひっぱりました。男は千里車の上で、むしゃむしゃと、鬼のくれた焼き餅を食いました。と、何ちゆうことだ。男には、ものすごい馬鹿力が湧〈わ〉いて、千里車といっしょに、ポオーンと海をとびこえました。そして、落ちてきたのが、この近所の山の上だった…と、おかあさんは、先生に話してくれました。
「その男の見た初夢というのは、焼いた餅を食うて、鬼が島から、宝物をうばう夢だったということです。」
なんと珍らしい話をきいたと、たんにんの先生は思いました。

この土地のやきもち・・・・というのは、他人〈ひと〉をうらやむやきもち・・・・じゃなしに、焼いた餅のやきもち・・・・だということがわかりました。

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