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ホーム > 学校・授業の教材 > 『郷土の民話』中播編 > 水上〈みずかみ〉の無言弁財天〈むごんべんざいてん〉(姫路市保城)

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更新日:2012年6月1日

水上〈みずかみ〉の無言弁財天〈むごんべんざいてん〉(姫路市保城)

今から五百年ほど前、市内保城〈ほおしろ〉に、当時の国守赤松政則〈まさのり〉が建立〈こんりゅう〉した勝松寺〈しょうしょうじ〉という大きな禅寺〈ぜんでら〉がありました。そして、この勝松寺のかたわらに、寺のまもり神としてまつられた弁財天〈べんざいてん〉の小さなほこら(神をまつる社)がありました。この弁財天は、いろいろな願いごとを、とてもよくきいてくれるというので、近在からの参詣人〈さんけいにん〉が絶えませんでした。
高尾宿〈たかおじゅく〉(高尾町)の兵六〈へいろく〉も、そうした参詣人にまじってきょうもいっ心にお百度〈ひゃくど〉(百日の間欠かさずにお参りすること)を踏んで〈ふんで〉いました。
兵六の家は代代わずかな土地と、ほんの少しの山林をまもって暮しをたててきましたが、いくらいっしょうけんめい働いても、いっこうに暮しむきはよくなりませんでした。それどころか、うち続く干ばつ〈かんばつ〉のために、ここ二、三年というものは、ただ命をなんとかつないでいるというありさまでした。

そんなある日、兵六は、「保城の弁財天はどんな願いごとでもよく聞いてくださる。」という話を伝え聞いて、ぜひ自分もそのごりやくにあやかりたいものと、さっそくお参りして、ねがいごとをかけることにしたのでした。“なんとかもう少し暮しを楽にしてほしい”兵六の願いはただこれだけでした。兵六は願をかけたその日から百日の間、身を清めてお百度参りをし、毎日、光明真言〈こうみょうしんごん〉十巻ずつをあげていっ心にお祈りしました。
そうこうするうちに三か月過ぎ、満願〈まんがん〉の日を迎えました。兵六が弁財天のお堂の前にぬかづき、最後のお祈りをすませて立ちあがろうとしますと、一陣の風とともに、なんともいえない清らかな香りが、あたり一面に立ちこめ、兵六をつつんだのでした。兵六はすがすがしい香りに思わず息をのみ、あたりを見まわしました。と、その目はほこらのかたすみにつつましく咲いているひと株〈かぶ〉の大輪〈だいりん〉の菊に、すい寄せられていたのでした。かぐわしい香りは、この美しい菊のあたりからただよっていたのです。兵六は、あまりの美しさにその菊を根ごと堀り起こして、家に移し植えました。

冬が過ぎ、ふたたび秋がめぐってきました。兵六の家の庭は大輪の美しい菊でいっぱいになり、かぐわしい香りはあたり一面にたちこめました。村の人たちは、そのかおりと美しさに目をみはっておどろき、そのうわさは、たちまち、遠くの村々にまで広がっていきました。そしてくる日もくる日も菊を求めて訪れる人たちで兵六の家はにぎわいました。田畑も豊作が続き、そのうえ、兵六の家でとれた作物はとてもおいしいというので、遠くから米や野菜を買いにやってきました。このようなことで田畑も年々ふえ、わずか数年の間に十人あまりの使用人を召使う〈めしつかう〉ほどの豪農〈ごうのう〉になってしまいました。この間、兵六はみじめな暮しをしていたころのことをおもうにつけ、これは弁財天の加護〈かご〉によるものと、ますますあつく弁財天を信仰〈しんこう〉し、感謝のお祈りを欠かしませんでした。

ところがある日、この兵六の家へあやしげな武士たち十人が、党〈とう〉を組んで強盗〈ごうとう〉に押し入りました。ふるえている家人をしり目に、家財道具など金めのものをすべて運び出したうえ、家人、召使いなど二十八人をしばりあげ、斬り〈きり〉殺そうとしました。兵六はじめ、家人たちは、今はもうこれまでと観念〈かんねん〉して目をとじたとき、どこからともなく、年のころ十才ばかりの稚児〈ちご〉二十人が風のように現われて、ものをもいわず、賊〈ぞく〉をみんな門の外へ追い出してからめとり、家人たちのなわを解いて〈といて〉、そのままどこへともなく姿を消してしまいました。そのすばやいこと、家人たちは夢かとばかりおどろき、抱き〈だき〉合って喜びました。とてもこんなことは人間業〈わざ〉とは思えませんので、この話を聞いた村人たちは弁財天の奇験〈きけん〉(ふしぎなしるし)にちがいないとうわさし合いました。
このようなことがあってからは、だれいうともなくこの弁財天を“無言弁財天〈むごんべんざいてん〉”とよび、ますます多くの人たちの信仰を集めたといわれています。

その後、勝松寺〈しょうしょうじ〉は天正年間(安土桃山時代)に兵火にあって炎上〈えんじょう〉しましたが、弁財天は焼けずに残りました。それからは、このほこらを勝松社〈しょうしょうしゃ〉とよんで、この地方の氏神にしてきました。

:弁財天=もともと、音楽、弁舌〈べんぜつ〉の才をたすけ、仏徳をひろめ、知恵の福をあたえるというインドの神のひとつですが、後世ではおもに福神〈ふくのかみ〉とされて、宝冠〈ほうかん〉、青衣をつけ、琵琶〈びわ〉をひいている女像となりました。わが国では七福神のひとつとしてまつられています。
:光明真言=真言宗で唱えるお教のひとつ。これをあげるといっさいの罪〈つみ〉をなくすることができるといわれています。

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