• お問い合わせ
  • 文字サイズ・色合いの変更
  • サイトマップ
  • 携帯サイト

メニュー

ホーム > 学校・授業の教材 > 『郷土の民話』中播編 > 塩売〈しおう〉り戻〈もど〉し(夢前町)

ここから本文です。

更新日:2012年6月1日

塩売〈しおう〉り戻〈もど〉し(夢前町)

「塩〈しお〉えー、塩えー、塩はいらんかなー。」夏の暑い日でした。塩売り〈しおうり〉が天秤棒〈てんびんぼう〉を、しわしわと、しわらせながら前之庄諏訪〈すわ〉から、夢前川〈ゆめさきがわ〉に沿うて、北へ北へと上っていきました。夢前川はいつものように澄みきった水が、岩にあたって砕けたり、平らな岩床の上をすべるように流れたり、とても涼しそうに見えました。ことにこの辺は川底に小砂一つない岩盤〈がんばん〉で、この岩盤が水の流れでつるつるに磨かれ〈みがかれ〉、ところどころに浅い穴〈あな〉ができたりして景色のよい所です。

塩売りは、重い荷物を道ばたにおろして、川へはいって顔を洗ったり、足を冷したりしました。気持ちがよくなったので、川岸に腰掛けてお昼弁当〈べんとう〉の握り飯〈にぎりめし〉をたべました。その時でした。東の山から枕ほどの石が「ごろごろーっ」ところげ落ちて、塩売りの横をかすめ、川の中へ「どぶーん」と、落ちました。塩売りは驚いて飛びのきました。「ああこわ!!すんでのことで死ぬとこだった。」と、いいながら上を見てまた大驚き。普通の家の十倍も二十倍もの大岩が、頭の上へ覆い〈おおい〉かぶさるようになって、今にも転げ〈ころげ〉落ちそうになっています。この辺の山は岩山で、それでなくても、ごつごつした山肌〈やまはだ〉の気持ちの悪い山です。塩売りが驚いたのも無理はありません。塩売りは恐しくなって、お弁当の始末もそこそこにして、荷をかついで、急いで前之庄の方へ逃げ戻りました。

諏訪〈すわ〉まで帰って、心やすいおばあさんの家で一休みして、今までのことを話しました。おばあさんは「そんなこと何も心配ないがな、あの大岩は太古からああして大地から突き出ている岩で、転げ落ちたりするかいな。」といって笑いました。それでも塩売りは恐ろしかったのでしょうか。それ以来いちども来たことがありません。こんなことがあってから、だれいうとなくこの岩を「塩売り〈しおうり〉戻し〈もどし〉」というようになりました。

お問い合わせ

情報管理部広報係

電話番号:078-331-9962

ファクス番号:078-331-8022