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更新日:2012年6月1日
村の一本松の下にある居酒屋〈いざかや〉のおやじさんは、今夜も、一升〈いっしょう〉(約一・八リットル)徳利〈とっくり〉をさげて酒を買いにくる、きれいな娘を心待ちにしていました。
今夜で十日めになるのですが、一晩もかかしたことがないのです。
カランコロン カランコロン
駒下駄〈こまげた〉の音は、遠くの方からかすかに聞こえはじめ、だんだん近づいてきます。おやじさんの胸はときめきはじめました。
「こんばんは。」娘は、ためらいがちな、かわいらしい声でいいました。
「お酒を一升くださいな。」「あいよ。」とおやじさんは、とっておきのかおりのいい酒をくんでさしだしました。娘はおやじさんの手のひらにお金を一枚のせて去っていきました。
居酒屋のおかみさんは、娘が酒を買いにきはじめてから、きげんがわるいのです。ひとつには、おやじさんがそわそわしているからですが、もうひとつは、あくる朝になって勘定〈かんじょう〉をしてみると、いつも一升分だけ、お金が足りないのです。そのかわり、きれいな木の葉が一枚まじっているのです。
ふしぎといえば、この村をはじめ、近所の村の一軒〈けん〉一軒を思い浮べてみても、こんな美しい娘さんのいる家はどこにもないのです。
おかみさんは、おやじさんにむかっていいました。
「おまえさんが甘いから、きつねにだまされるんだよ。」
おやじさんも、まけずにいいかえします。
「だまされているかいないか、きつねかきつねでないか、しらべられるなら、しらべてみろ。」
十一番めの夜、村の若い衆〈しゅう〉が、手に手に木刀や木切れを持ってはりこむことになりました。
きまった時刻、きまった道の方角から、すんだ駒下駄の音が聞こえはじめました。
カランコロン カランコロン
駒下駄の音は、だんだん近づいてきます。
「こんばんは。お酒を一升くださいな。」「あいよ。」おやじさんは、いつものように、酒をくんでさしだしました。お金を一枚、おやじさんの手のひらにのせて、娘は、だいじそうに徳利をさげて帰っていきます。
若い衆は、家のうしろから、松の木のかげからしのび出て、そっとあとをつけていきました。
カランコロン カランコロン、村はずれにある橋のたもとまできたとき、急に娘の姿は消えてなくなりました。
それ!とばかり、若い衆は飛びだして、娘が消えた場所をめがけて、めったやたらになぐりつけました。
あくる朝、おそるおそる、居酒屋のおやじと村の若い衆が、昨夜娘が消えてなくなった橋のたもとにいって見ると、傷だらけになった石がひとつ、ごろんと横たわっていました。
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