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ホーム > 学校・授業の教材 > 『郷土の民話』中播編 > 長平どんとかちん染め(姫路市白国)

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更新日:2012年6月1日

長平どんとかちん染め(姫路市白国)

むかし、むかしに、こんな話がありました。

それが、なにせ、わたしたちの近くのことやから、よけいに、めずらしいということになります。

そのころ、都〈みやこ〉に坂田長平〈さかたちょうへい〉という武士〈さむらい〉がいました。気がやさしくて力もち、その上、人に好かれて、ふつうなら長平殿〈どの〉というところを長平どんと呼ばれていました。ある時、都で名のある衣裳屋〈いしょうや〉がやってきて、「これが、いま、一番流行〈はやり〉の着物の、はりまのかちん染め〈ぞめ〉でございます。」といって、しぼりの時服〈じふく〉をつき出しました。

「わしは、あんまりみなりをかまわんもんじゃけど、かちんぞめとはおもしろい、それじゃ一着。」といって買いました。ところで、長平どんが、ちっとま、それを着ただけやのに、汗が出るたびに着物から、血のような色がしみ出てきます。

「はて、おかしなこっちゃ。きしょく(気持ち)のわるいことじゃ。」といい、長平どんは、さっそく紺屋〈こうや〉(そめもの店)に出しました。ところが、紺屋もびっくりしました。「こりゃあんた、ふつうの着物とちがいます。人間の血でそめたもので、これだけのそめ物をするんやったら、よっぽど、大勢の人間を殺しとりまっせ。」と、紺屋の主人がいいました。長平どんはふしぎに思って、これには、何かふかいわけがあるにきまっている。よし、それならひとつ、その原因をしらべてやろうということで、播磨〈はりま〉という名をたよりに、だんだんやってきました。そして、平野〈ひらの〉の人留之岡〈ひとどめのおか〉に、小鷹〈おだか〉・小熊〈おぐま〉という者がいとなんでいる旅館にとまりました。ところが、つぎつぎとふしぎなことがあって、この旅館でいよいよねようと思うと首の下におく枕〈まくら〉が何と冷たい石の枕ではありませんか。

「はて、へんなこと。」と思っていると、どこからともなく、“旅の人石の枕はせぬものじゃ”という歌を、ふしおもしろくうたう者があります。たしかに、女の人の声みたいです。しかし、どこからきこえてくるのかはっきりしません。なんどもくりかえしています。どこかに出口はないものかと、あっちこっちを探してみました。“旅の人、窓がしずかにあくものじゃ”という、同じ人らしい歌がきこえてきます。長平どんは窓へ手をかけ、さっと開きました。そして、声のしてきた方へそっと歩いていきました。すると植込みの中に人のけはいがします。

「あなたでしたか、よくしらせてくれました。いったい石の枕ってのは何です。」「それが…。」と、その女はいいかねているようでした。女は手まねで、ここへきて姿をかくせ、と教えるので、長平どんも植込みの中にかくれました。女は、小声で、“この家こそ播磨の血干染〈ちぼしぞめ〉を出す、おそろしい盗賊〈とうぞく〉のすみかです。旅人を酔いつぶして、石の枕をさせ、おもりの石を上からかぶせ、身動きさせないでおいて財物〈たからもの〉をうばい、血をしぼりとります。かしらの小鷹〈おだか〉・小熊〈おぐま〉には八十七人の手下がいます。自分はここの召使い〈めしつかい〉で、にげようにもにげられないのです。”ということを教えてくれました。

「よし、そんな悪い奴なら、なんとか、やっつけてやりたい。」長平どんはいろいろ考えましたが、二重、三重にとりまかれた、このかこいの中の旅館では、どうにもしょうがありません。ふたりでそうだんして、はかりごとを考えました。手下が酒盛〈さかもり〉をする最中に、やっつけようということでありました。
「では、ちょっと見てきます。」女は中へ入っていきましたが、すぐ出てきました。

「ふたりとも何にも気がついていません。酔っている中で、ふたりのかしらの束髪〈そくはつ〉(頭のまげ)の中へ血干染につかう鮮血玉〈せんけつだま〉をしかけてきました。」「それで、鮮血玉はどうなりますか?」と、長平どんがききました。
「はい、もし追いかけてくるようでしたら、あなたは、ふたりの束髪〈そくはつ〉を的〈まと〉に弓をうってください。それが破れて、赤い血が顔に流れ、目が見えなくなります。その間に逃げましょう。」「よろしい、承知しました。」

ふたりは、いいあわせて、植込みから逃げる方法を考えました。すると、目の前に一本だけ、すぐれて太い竹のあるのに気がつきました。
「よしよし、この竹の上までのぼっていけば、竹は外へしだれる。そのとき、藪〈やぶ〉の向うへ飛びおりればいいのだ。さ、しっかりしなさい。」と、大力の長平どんは、女をかかえながら、やすやすと竹にのぼり、うまいぐあいに、小鷹〈おだか〉・小熊〈おぐま〉のすみかをぬけ出し、いちもくさんに、にげるだけにげていきました。長平どんは姫路の男〈おとこ〉山へ逃げ、女は姫〈ひめ〉山ににげのびていきました。

しばらくたって、二人の逃げ出したのを知った小鷹・小熊は、手下を起こしましたが、みんな酔いつぶれてしまっています。「おのれっ!」と怒って、かしら二人が追ってきましたが、もう長平どんと女の姿は見あたりません。
しかし、はるかにこれを見た長平どんこと坂田長平は、女にいわれたとおり、弓に矢をつがえました。

小鷹も小熊もいつも頭は束髪〈そくはつ〉でした。ころはよしと見て、“ひょうふっ、ひょうふっ”矢を射込みました。

二本の矢は、うまくしかけてあった鮮血玉に命中しました。たちまち、まっ赤な血がほとばしり出て、小鷹・小熊の両眼に流れこみました。
「ああ、もうだめだ、何にも見えない。手下の奴は何をしているんだ!」「それに、ゆうべの客と、召使いのむすめはどこへいったんだ!」小鷹・小熊は、くやしがって、むちゃくちゃにかけずりまわりましたが、見えない目ではどうしょうもありません。しかたなく、引返す途中の小川の水で目をあらいました。けれど、いくらあらっても血はとれないで、とうとうめくらになったということです。石の枕で、殺されたたくさんの人の、たましいののろいだと世間の人がいいあったそうです。

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